世の中捨てたもんじゃない
荷物がまだ届いていないウイーンでの三日目に、日常生活
に必要なものを買うことにした。デパートや雑貨店で下着、
ポロシャツ、洗面用具そして次の訪問都市が寒いといけない
のでセーターなどを買った。
困ったのが髭剃りとヘアクリームである。普段髭剃りには
電動シェーバーを使っているが、旅行の時は小型のものを持
って行く。電動シェーバーでも面白い経験をしたが、今回は
ヘアクリームの話である。
いくら髪の毛が薄いとは言え、頭を洗うだけでは爽やかな
気分とまではいかない。帝国ホテルなど日本のホテルにはヘ
アリキッド、ヘアトニックなど3点セットが用意されている。
こんなサービスは外国のホテルではまずないだろう。
そこで雑貨店へ行ってみた。歯ブラシや歯磨きなどは文字
(ドイツ語)を読まなくても分る。ところが、ヘアクリーム
らしきものは見当たらない。
店はかなり込んでいたが、店の女性に聞いてみた。しかし
英語が通じない。やむを得ずボディランゲージになる。シャ
ンプーはまだしも、とんでもないものまで持ってくる。とう
とう買い物に来たお客さんに、誰かこの爺さんが言っている
ことが分かる人はいないか尋ね始めた。
生憎客の中に英語の分かる人はいなかった。諦めたその女
店員は、キャッシャーの女性は英語が分るので、ちょっと待
ってくれと言ってくれた。そのキャッシャーにもヘアクリー
ムの意味が通じなかった。薄い髪の毛を見て調髪のことなど
思いつかなかったのか。そもそも男性用のヘアクリームなど
無いのか。もともと調髪剤には全く無縁であったが、トニッ
クだろうが何だろうが頭をスッとさせたかっただけだ。
結局目的は達せられなかったが、この時のお店の女性や近
くにいたお客さんたちが、真剣に異国人の言うことを分って
あげようとしていた気持が感じられ、妙に嬉しかった。世の
中、まだまだ捨てたものではない。
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